EV充電中

実験ひよこ

地球温暖化防止を目的に、日本は2050年に温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルの実現に向けて動き出しています。
多くの産業に影響を与えることが予想されるなか、自動車業界も国の動向に合わせて舵取りを余儀なくされそうです。
今回は、カーボンニュートラル政策が将来の車社会にどのような影響を与えるのか、考察したいと思います。

 

カーボンニュートラルとは何か?

2020年秋、当時の菅首相が、所信表明において2050年までにCO₂排出量の実質ゼロ化を宣言しました。
カーボン=炭素となりますが、地球温暖化を招く温室効果ガスのなかで、最も量が多いのがCO₂です。
植物の光合成によりCO₂は吸収されますが、産業革命以降、人類は石炭や石油などの化石燃料を大量に燃やし続けていることで、今では排出量>吸収量となっています。

気象庁HP資料にもある通り、地球全体でのCO₂濃度は右肩上がりとなっています。

CO2濃度資料(気象庁)
(出典:気象庁HP https://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/ghgp/co2_trend.html)

こうして大気中に排出されたCO₂によって地球温暖化が進行し、気候変動や災害時の激甚化を招いていると言われています。
人類は、化石燃料から得る豊かさと引き換えに、地球温暖化のトリガーを引いている状況なのです。
カーボンニュートラルは、化石燃料の燃焼によって発生するCO₂を極限まで減らし、植物の光合成による吸収量と同等にすることで、実質ゼロを目指すという政策となります。
この宣言をカーボンニュートラル宣言といい、大まかに言ってしまえば、カーボンニュートラル=2050年時点でCO₂排出を無くすという認識でよいでしょう。

自動車が登場してから100年近くになりますが、この間、ガソリンや軽油を燃やし続けCO₂を排出してきました。
この自動車に対しても、2035年に内燃機関のみが動力源となる自動車の販売が禁止され、本格的にCO₂の排出をゼロにすることが求められるようになったのです。

 

低炭素から脱炭素へ 政策変化の要因は?

カーボンニュートラル自体は、すでに125か国+1地域が取り組んでいくことを表明しています。
もともと日本の政策は、2016年に「2050年時点でCO₂排出量を現行から80%減らす」ということを閣議決定していました。
ただカーボンニュートラルに関しては、具体的な明言を避けていました。これは、産業界に与える影響を鑑みての判断だったのかと思います。

それが今後はCO₂排出をゼロにすることを目標としたわけです。 多少なりとも排出できる環境から、それを許さない環境になるのは大きな違いです。
何が菅首相をカーボンニュートラルに思い立たせたのか。

最も影響を与えたのが、水野弘道氏との面談ではないかと言われています。

・水野弘道氏経歴
ESG投資(企業の基盤成長の要因に環境問題や社会問題への取組を加えて評価し投資する)の重要性を説いており、我々の年金を運用するGRIFの理事長も務めていました。
当時は経済産業省の参与でもあり、環境政策に関して助言をする立場でもありました。

ただこの水野氏、経産省の参与就任とほぼ同時期に、テスラ(米国の電気自動車メーカー)の社外取締役にも就任しております。
日本の自動車メーカーのライバル企業取締役が、経産省参与として日本の政策助言を行うという構図・・・。
水野氏自身の信条は素晴らしいとしても、あらぬ疑いをかけられなくもない立場ですよね。
菅首相との面談で、カーボンニュートラルに向けて本格的に動かないと、世界の投資を呼び込めなくなる・・・という話をしたのではないでしょうか。

なお、テスラの株価は昨今の流れから大きく値を上げ、トヨタ自動車の時価総額を上回っています。

カーボンニュートラルに向けた自動車メーカーの対策

現在の主要な自動車の動力源は以下のとおりです。

内燃機関(エンジン)車(ICE車)
ガソリンや軽油を燃焼させるエンジンのみで動く車種。
温室効果ガスの排出が多いとして目の敵にされがちですが、燃焼効率の向上など燃費改善も進んでいます。
ロドスタ
現在も多くの車種に設定されている動力源です。

ハイブリッド車(HV車)
エンジン+モーター装備の車両。モーターの容量によってストロングハイブリッド、マイルドハイブリッド等に分類できます。
駆動にあたって、エンジンだけではなくモーターを使用することで燃費改善やCO₂排出量の削減が可能です。
ヴェゼル
(出典:https://www.honda.co.jp/VEZEL/webcatalog/styling/design/)
トヨタのプリウスを筆頭に、多くの車種が販売されています。

プラグインハイブリッド車(PHV車)
大容量バッテリーを搭載し外部充電をすることで、HV車に比べてモーターでの走行距離を大幅に強化させた車種。
近場の運転であれば、モーターのみでの走行が可能。電力が切れれば内燃機関での走行も可能であり、近距離から長距離まで対応ができます。
アウトランダー
(出典:https://www.mitsubishi-motors.co.jp/lineup/outlander_phev/exterior/)
トヨタや三菱自動車に車種が多いです。

電気自動車(EV車)
内燃機関を持たず、100%モーターのみで走行する車種。搭載されるバッテリーの容量によって航続可能距離に差がでます。
走行中はCO₂などの排出はなく、近年では特に欧州メーカーを中心に普及促進がされています。
リーフ
日産のリーフは、電気自動車として世界初の量産車です。

燃料電池車両(FCV車)
燃料電池により、水素と酸素の化学反応で発電、モーターを駆動させる車種です。
CO₂の排出はなく、充電という行為に代わって水素の充填を行うことになります。
現状では実用化された車種は少ないですが、産学官連携による研究も進められています。
MIRAI
(出典:https://www.nagano-toyota.jp/lineup/mirai?gclid=CjwKCAjwz5iMBhAEEiwAMEAwGPYQenm9kMHc1a1V4qeUYZqDkSZn6lDW6BHq_8SUkfUw_q10kYLbwRoCfYsQAvD_BwE)
トヨタのMIRAIが市販されていますが、燃料となる水素の供給や車両価格など、普及には至っていないのが実情です。

このなかで、走行中におけるCO₂の排出がゼロとなるのは、EV車及びFCV車となります。
内燃機関車両も近年は燃費改善が進んだことやHV車などの普及もあって、ピーク時の2001年と比べてCO₂の排出量は減少しています。
CO2排出量グラフ
(出典:国交省資料 https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html)

とはいえ、今後約30年間でゼロに近づけるためには、今まで以上の排出削減が求められ、技術的に厳しいことが予想されます。
現状確立している技術を考えると、2050年時点でのカーボンニュートラル達成を目指すためには、EV車の普及が最適解といえ、各メーカーも電動化技術の基盤強化に取り組んでいる段階です。

自動車の電動化における問題点

国もそれを踏まえて、2035年以降は電動車のみについて新車販売を認める方向性となりました。
※電動車=HV車、PHV車、EV車、FCV車

ガソリン車やディーゼル車などの内燃機関車は、いよいよ販売禁止となり、電動化への移行が待った無しの状況です。
しかし、自動車を全て電動車(特にEV車)にしたとして、果たしてそれでカーボンニュートラルになり得るのでしょうか?

ライフサイクルアセスメントによるCO₂排出量の考え

自動車は走行時だけCO₂を排出しているわけではありません。
燃料の採掘から車両製造、最終的に廃棄処分される際まで、様々な場面でCO₂の排出を行っています。
走行時にCO₂を排出しないEV車ですが、充電に使用する発電時のCO₂排出や、搭載されるバッテリーの製造時における環境負荷(CO₂排出量)が高いことが知られています。
LCA比較
(出典:https://www.mazda.com/ja/csr/environment/lca/)

上記はマツダの資料になりますが、トータルでのCO₂排出量を見てみると、一概にEV車に切り替えればカーボンニュートラルになるとは言えないのです。

最大のCO₂排出要因は発電部門

日本では、自動車などの運輸部門が占める全体のCO₂排出割合は18%程度に対し、発電にかかるCO₂排出割合は約42%と膨大です。

(参考)
各国の発電体制は以下のとおり特長がわかれます。
各国の発電割合
(出典:https://www.fepc.or.jp/enterprise/jigyou/shuyoukoku/index.html)

日本では、東日本大震災以降、原子力発電の割合低下を火力発電で賄っており、CO₂排出量も多い状況です。
欧州などでは、原子力発電や再生可能エネルギー(風力、太陽光、地熱等)の割合が比較的高い国が多く、発電におけるCO₂の排出割合も低くなります。
とすれば、このような地域でEV車を積極的に使用することは、カーボンニュートラルの達成に必要といえそうです。

その逆に、現時点の日本でEV車をカーボンニュートラルの主役に位置付けるには、現状の発電割合では無理があるということになります。
また充電インフラや使用電気量の増加が見込まれ、それに対応する発電供給体制が構築できるのか、問題は様々です。

これはトヨタ自動車の豊田社長も意見しているとおりです。

(国内保有車両6,000万台を)全部EVに置き換えた場合、夏の電力使用がピークのときには、電力不足に陥ります解消には発電能力を+1015にしなければなりません。これは、原発で+10基、火力発電で+20基の規模に相当します
それから、保有を全てEVにした場合、充電インフラの投資コストは約1437兆円かかります。自宅のアンペア増設は一個当たり1020万円、集合住宅の場合は50150 万円になります。急速充電器の場合は平均 600万円の費用がかかるので、約1437兆円の充電インフラコストがかかるというのが実態です。

生産で生じる課題としては、(注:国内の乗用車の年間販売台数に相当する400万台がEVに置き換わると)電池の供給能力が今の約30倍以上必要になります。能増コストとして約兆円
それからEV生産の完成検査時には充放電をしなければならず、現在EV一台の蓄電量は家一軒の一週間分の電力に相当します。
50万台の工場とすると、日当たり5,000分の電気を充放電することになる。火力発電でCO2をたくさん出し、各家庭で使う日当たり5,000軒分の電力が単に(検査で)充放電される。

そのことを分かって政治家の皆さんがガソリン車をなくそうと言っているのか。是非、正しくご理解いただきたいと思っています。
(出典:トヨタイムズ https://toyotatimes.jp/insidetoyota/111.htmlより)

電気自動車(EV車)の普及が進まないこと

近年は充電スポットも整備され、主要なサービスエリアや道の駅等には必ず充電スポットが見当たるようになりました。
とはいえ、設置されていても1か所止まりな場所が多く、先客がいることも踏まえると、出先で自由に充電できる環境には至っていません。

こういったインフラ整備の問題以外にも、電気自動車が普及しない要因があります。

車両価格が高い
補助金など考慮しても、通常の内燃機関車より割高になります。
日本の平均所得が横ばいなままであることから、価格競争力が低いままでは購入候補になり得ません。

航続距離が短い
内燃機関車などに比べて、1回の充電で走れる走行距離が短いというのもデメリットです。
特に長距離トラックなど、運輸業でのCO₂削減のために使用したくても、現在のEV車の性能では厳しいものがあります。
近距離での使用(いわゆるチョイ乗り)では効果的ですが、そのような使い方をするのなら、車両価格の高いEV車でなくとも充分と考えるのが一般的でしょう。

将来的な普及促進のためには、EV車そのものの技術革新も必要になってくると考えられます。

自動車産業での失業者の発生

日本経済を支えている自動車産業ですが、現状の内燃機関を伴う自動車の製造からEV車に切り替わった際、
必要部品数などが減少することから、多くの失業者が発生することが予想されています。
EV車に関する新たな産業が創造される可能性もありますが、そこで日本メーカーが優位を保っている保障はありません。

急激な政策誘導によってこのような失業者が発生した場合、日本の経済不況が深刻化する恐れもあります。

再生可能エネルギーは安定供給に難あり

CO₂排出をゼロにできる再生可能エネルギー。自然を相手にする分、計画的な発電を見込むことは難しくなります。
果たして現在の経済活動をさらに拡大させていく必要がある今の世界で、再生可能エネルギーは需要に応えるだけの能力があるのでしょうか。

2050年のカーボンニュートラル達成は難しい

これら諸問題を考えると、解決には時間を要することが多く、2050年における日本のカーボンニュートラル達成は難しいと思います。
ただ、温室効果ガスを抑制することは世界的な課題でもあり、国単位での取組だけでなく、世界的な連携を踏まえて進めるべき問題です。

自動車に関していえば、各地域の実情に応じた正しい動力源の選択肢を残すことが必要です。
・各地域の発電事情を踏まえ、ライフサイクルアセスメントでみたときに最も効果の高い動力源を選べるようにすること。
・世界的に見て、EV車などの普及が難しい地域も多く、そのような国では高効率な内燃機関車やHV車の選択ができるよう開発を続けること。
・インフラ投資を行う国際機関を立ち上げて、世界的に再生可能エネルギーへの転換を図ること。(汚職まみれになりそうですが・・・)
・排出削減だけでなく、排出された温室効果ガスを吸収、変換する技術の確立も進めること。

日本の問題としては、高い目標を掲げるのはいいですが、実効性のあるロードマップが見えてこない現況では、絵空事と思われても仕方ありません。
国内のロードマップをしっかり提示したうえで、日本が持つ低炭素技術や省エネ技術で世界に貢献することが求められますね。
また、国内自動車メーカーが持つ技術(特に高効率な内燃機関やHV技術)は、カーボンニュートラルに向けて、世界各地で需要がある技術です。
こういった技術力を簡単に破棄せずに済むよう、国の政策も考えてほしいものです。

いずれはCO₂排出ゼロの動力源が主流になる日が来る

難題が多い状況ですが、いずれはカーボンニュートラルを達成する日が訪れ、内燃機関車やHV車などの出番が無くなる日がきます。
(少なくとも、2035年には国内で内燃機関車のみの車両の新車販売は無くなります)

日本ではEV車は普及していませんが、国内自動車メーカーのもつEV分野での技術力や特許申請数などは、世界トップレベルであることは間違いありません。
いずれはEV車に代表されるCO₂を排出しない動力源が主流になることは自明の理です。

CO₂を排出しない動力源は、EV車が最もイメージがわきやすいですが、バイオ燃料による既存の内燃機関を用いた動力源も研究が進んでいます。
もしかすると、フェードアウトの運命にある内燃機関自体が、カーボンニュートラルの主役になる未来もあるかもしれません。

トヨタやマツダなど5社、脱炭素エンジン活用で連携 選択肢を模索
トヨタ自動車、マツダ、SUBARU(スバル)、ヤマハ発動機、川崎重工業の5社は13日、脱炭素化に向け、内燃機関を活用した燃料の選択肢を広げる取り組みを進めると発表した。トヨタが自動車レースを通じて目指しているエンジンの脱炭素化への取り組みに4社が参加する。

トヨタの豊田章男社長は「カーボンニュートラルの実現方法は1つではない。いろいろな選択肢を残していきたい」と説明。内燃機関でも環境に優しい燃料を使うことで雇用やさまざまな投資機会を確保できれば「今まで何十年と培ってきたいろいろなノウハウ、知見が無駄にはならない」と述べた。
(出典:ロイター2021年11月13日WEB記事 https://jp.reuters.com/article/toyota-co2-idJPKBN2HY06D)

残念ながら、2050年にそのタイミングが到来することは困難を極めますが、この分野の今後の動向を注意深く見守り、自分なりにEV車やFCV車等の実力を試していくつもりです。
またそれに合わせた家庭環境の構築も検討したいと思っています。
(EV車の蓄電池化など)

まとめ

・2050年のカーボンニュートラル達成は難しい。
・世界的に連携して解決すべき問題であり、それにあたって国内自動車メーカーの持つ技術力(高効率な内燃機関やHV技術)は有益。安易に潰せる代物ではない。
・発電割合における再生可能エネルギーを増加させる取組が必要。
・日本での当面の主力動力源は、高効率な内燃機関車やHV車になるが、局面に応じて主力動力源を変えていくよう政策誘導が必要。またその指標を公表することも必要。
・EV車やバイオ燃料仕様車など、走行時のCO₂排出がゼロになる動力源は当然将来の主力。普及に向けて技術革新が求められる。
・自動車好きな方は、今のEV車の実力を把握しておき、将来の買替基準を設けることも必要。