カーボンニュートラルに向けて電気自動車の台頭が期待されています。
今回、マツダのMX-30EVモデルを1日体感試乗する機会があったので、実際に電気自動車を使用してみた感想を記事にしたいと思います。
電気自動車としてのMX-30スペック比較
今回試乗した電気自動車であるマツダMX-30。
マツダ初の電気自動車モデルです。
24Vマイルドハイブリッドを併せ持つガソリンエンジンモデルもあり、マツダの中では電動化が進んだ車種です。
主なスペックは以下のとおり。
全長:4,395mm
全幅:1,795mm
全高:1,565mm
重量:1,650kg
最高出力:107kW(145馬力)
最大トルク:270N・m
駆動用バッテリー種類:リチウムイオン電池
バッテリー容量:35.5kWh
一充電走行距離:256km(WLTCモード)
車両価格(税込):451万円~495万円
バッテリー容量35.5kWhというのは、決して大きい容量とはいえません。
参考に、現在市販されている主な電気自動車のバッテリー容量は以下の通りです。
バッテリー容量 | 航続距離(WLTCモード) | |
---|---|---|
ホンダ e | 35.5kWh | 259km~283km |
日産 リーフ | 40kWhもしくは62kWh | 322km~458km |
テスラ モデル3 | 54kWh~82kWh | 448km~613km |
※テスラの航続距離はWLTP基準に基づく数値です。
マツダ、ホンダは35.5kWhと共通しており、航続距離も200km台となっています。
長距離を頻繁に走るユーザー向けというよりは、近場の運転をメインに考えられた規格です。
また、メーカーとしても初の量産型電気自動車ということもあり、試作的な一面もあろうかと思います。
日産のリーフやテスラとなれば、バッテリー容量も増加し、使い勝手の幅も広がります。
また、テスラは独自の充電ステーションの整備も行っており、日本国内での規格とは一線を画す高出力化された充電体制を整えていることが特長です。
出典:テスラHPより https://response.jp/article/img/2019/10/07/327319/1460973.html
気になる車両価格はどうでしょうか?
車両価格(税込) | |
---|---|
ホンダ e | 451万円~495万円 |
日産 リーフ | 332.6万円~469.3万円 |
テスラ モデル3 | 454万円~717.3万円 |
MX-30やホンダeに関しては、グレード構成も少なく、オプションや先進機能等を贅沢に盛り込んでいることから、価格も高めとなっています。
メーカーも多くの台数を出すことは想定していないでしょうね。
逆に日産のリーフは、世界初の量産型電気自動車というだけあって、グレード構成や販売台数も多く、質素なグレードであれば300万円台からスタートとなります。
こちらは普及促進に積極的ということでしょうか。
驚いたのはテスラです。
バッテリー容量も大きく、高価格帯になると思っていましたが、ベースグレードでは400万円台からのスタートとなっています。
2021年2月に価格改定が行われ、82万円~156万円近くの価格ダウンとなりました。
通常の自動車メーカーでは真似できない価格改定であり、今後更に普及が進めば、同様の改定を行う可能性も高く、価格競争力の向上が期待されます。
今回試乗したマツダのMX-30は、比較してみると電気自動車としての能力はまだまだ低いと言わざるを得ません。
しかしながら、自動車としての仕上がりは上質で、マツダらしいハンドリングの良さも備えており、運転が楽しく感じるクルマでした。
コースは勾配のある山岳路。電気自動車の走りはどうなのか。
今回ドライブした区間は、長野県松本市から岐阜県中津川市の夕森公園までを結ぶ、国道19号線。
木曽路を行く山岳コースであり、上り下りの勾配やコーナーの具合など、クルマの素性を楽しみつつ電気自動車としての航続距離を計ることを目的としました。
片道約120km程度ということもあり、MX-30のバッテリー容量でも充分走れる範囲ですが・・・
実際に走行して、電気自動車独特の魅力として感じた点は以下のとおりです。
モーターのトルク感あふれる走りが心強い
上り坂でも充分なトルク性能を発揮し、苦しいそぶりもなくどんどん上っていきます。
まるでディーゼル車のような圧倒的なトルク感は、電気自動車の魅力ですね。
特に初速時点からトルクが出るモーターならではの強みでもあります。
静粛性がもたらす車内環境の快適さ
エンジン音が無い分、静粛性は有利に働きます。
特にMX-30自体の静粛性が高く、ロードノイズや風切り音など気にならず、車内での会話がとても楽に行えました。
静粛性が高ければ、オーディオも充分に楽しめるため、良い音質環境で好きな音楽を楽しみながらのドライブも良いです。
回生ブレーキによる航続距離増加
勾配がある山岳路ならではかもしれませんが、下りが続く環境であれば回生ブレーキにより、航続距離も大分稼ぐことが出来ます。
また、周囲の速度に合わせて下り坂であってもアクセルを入れるような局面もありましたが、なるべく回生が効く範囲に留めることで同様の効果を得られました。
左のタコメーターならぬ、出力メーターの「CHARGE」部分に入るようなアクセルワークを心掛けると航続距離は伸びます。
特にMX-30のようなバッテリー容量の小さな電気自動車では、下り勾配を活かした回生ブレーキは重要だなと感じました。
マツダ車限定?ハンドリングの良さを堪能
山岳路で感じた魅力なのですが、想像よりもハンドリングが素晴らしく、コーナーも楽しく走れました。
電気自動車としての魅力というよりは、車両そのものの特性なのだと思います。
特にマツダは、Gベクタリングコントロール+という、エンジンのトルク操作やブレーキ介助を用いて車両の荷重変化をサポートするシステムを近年発売したモデルには搭載しています。
このシステムとモーター駆動での走行の相性の良さがあるものと思いますが、走っているとシステムの存在は感じることはありません。
それでいてしっかりと姿勢変化を安定させてくれているのですから、縁の下の力持ちとして活躍しているのでしょう。
ロードスターのハンドリングも楽しいのですが、MX-30はそこに快適性を高めたハンドリングの良さを提供してくれました。
他メーカーの電気自動車にも試乗してみて比較したいところですが、これがマツダが目指す電動車両の味付けなのだとすると、マツダが出す将来の電気自動車にも期待が持てます。
山岳路を走って感じた電気自動車のデメリット
電気自動車ならではの魅力を感じ取れるドライブでしたが、当然良いことばかりではなく、デメリットも体感しました。
上り勾配での航続距離が心許ない
MX-30のカタログ上の航続距離は256km。
バッテリーは100%フル充電する機会はあまりないので、実態として200kmそこそこといったところでしょうか。
加えて勾配のあるルートだと、上り坂が続く道ではみるみる航続距離が減っていきます。
航続距離が減ることを恐れてアクセルを踏めなくなることもあり、1日かけてドライブをする場合は、もう少し航続距離に余裕があればいいなと感じました。
多くの充電スポットは出力が低い&設置台数が限られる
道の駅や高速道路上のサービスエリアなどには、今や充電スポットは当然のように設置されています。
国道19号線の木曽路にある主要な道の駅にも、充電スポットは設置されていますが、使い勝手は正直イマイチと思いました。
理由としては以下の2点が挙げられます。
・高出力型の充電スポットが少ない
電気自動車の充電方法には以下の2パターンがあります。
主な充電場所 | 備考 | |
---|---|---|
普通充電 | 車庫 | 車を使用しない間、ゆっくりと充電することでバッテリー劣化を防ぎつつ充電を行う。 |
急速充電 | 屋外施設 | 高出力型となり、走行に必要な電力を短時間で充電することが可能。 |
屋外施設に設置されている充電スポットは、急速充電対応となっており、通常の充電方法よりも出力が高いのが特長です。
1回あたり30分間の使用が基本となり、この間にどこまでバッテリーの充電が可能となるかが重要です。
これは道の駅賤母に設置されていた充電スポットになりますが、出力規格は25kWhとなります。
実際にMX-30で充電してみると、30分の充電時間でバッテリーは20%ほどの回復に留まりました。
道の駅やコンビニなど、一般的に設置されている充電スポットは、大体この程度の規格が多いと思われます。
正直この出力では、1回で充分な充電が出来るとは言えず、長距離使用時の充電は、継ぎ足しを繰り返す必要があることを痛感しました。
急速充電とは名前負けもいいところです・・・
・充電スポットの設置台数が充分ではない
1回の充電で足りなければ、続けて充電すればいいと思いますが、今回のように道の駅に設置されている充電スポットは1台のみであることが多いです。
地域差はあるのでしょうが、1台しかない充電スポットを長時間占有することは迷惑行為ですし、30分の利用を基本とするべきでしょう。
設置台数が少ないということは、先客がいれば充電が終わるまで待機する必要があります。
充電スポットは他にもあるとはいえ、バッテリー容量がギリギリの状況だったりすると、待ち時間も含めて充電にかかるタイムロスは大きいと感じました。
航続距離が控えめなMX-30にとって、この環境は厳しいものを感じましたね。
今後の電気自動車普及のためには、既存の充電スポット以上に高出力となる充電設備を整える必要があると思います。
しかし、消費電力が大きくなるということは、国内のエネルギー政策にも影響を与えかねず、難しい問題なのかもしれません。
帰路は上り勾配が続いたことからバッテリー消費も大きくなり、念のため途中で充電を行いました。
その際の車内画面の様子。
この時の出力は20kWhで、完全充電までは1時間35分・・・。
実際は満充電までする必要はないとはいえ、充電待機中の時間がもったいないと感じたりもします。
充電スポットの利用方法:エコQ電の場合
充電スポットの利用方法について、私は以下のとおりエコQ電システムに登録しました。
必要なもの
・QRコード読み取り可能なスマホや携帯電話
・クレジットカード
利用方法
1.充電スポットにQRコードが表示されていますので、読み取り後認証サイトへ
2.サイト内で利用規約を確認し仮登録実施
3.仮登録後、本登録サイトのURLがメールで届くので、IDとパスワードを設定
4.個人情報(クレジットカード情報含む)を入力し、会員登録完了
5.登録後は、充電スポットのQRコードを読み取り、ID・パスワードを入力すれば即充電利用可能となる。
※注意
スマホ等からQRコードを読み取る必要があるため、スマホ自体の使用ができる環境が必須。
(私はスマホが充電切れを起こしそうだったため、復路はヒヤヒヤしながらドライブを楽しんでいました)。
充電料金は場所により様々ですが、今回充電利用した道の駅では以下の通りでした。
充電量 | 料金 | |
---|---|---|
道の駅賤母 | 8.07kWh | 1,650円 |
道の駅木曽ならかわ | 2.4kWh | 550円 |
※料金内訳
道の駅賤母
最初の5分間まで275円 以降1分55円
道の駅木曽ならかわ
15分間につき275円
出力により料金設定の方法も様々となっています。
電気自動車のメリットを活かすルート設定も必要
電気自動車ですが、渋滞路では以外と航続距離は減りません。
帰路ではあえて渋滞路に嵌ってみたのですが、電気自動車はこういう走行環境は得意です。
ストップ&ゴーの環境では、モーター駆動によるロスの無い走りが非常にあっていると感じました。
また下り勾配の環境では、回生ブレーキにより航続距離を稼ぐこともでき、上り勾配でロスしたエネルギーを取り返すことも可能です。
上り勾配が続く環境では苦しいですが、下り勾配がメインとなるルートであれば航続距離もカタログ値以上の数字が出せるはずです。
内燃機関車にはないこういった特長も合わせて、電気自動車でのドライブ時はルート設定が大事だなと感じました。
まとめ
MX-30に試乗して、電気自動車は走りも愉しめる車であることを実感。
充電設備の出力不足、台数不足はただでさえ航続距離が少ない車両にはストレスになります。
今後電気自動車を普及させるためには、充電設備の高出力化及び台数増加は必須。
とはいえ、国内のエネルギー環境を考えると、すぐには対応できない問題。EV車の普及はまだまだ先になるでしょう。
往復約230kmほどの山岳路走行で、2回の急速充電を実施。(結果的に2回目は必要なかったが)
高出力型の充電設備があれば、1回で充分かと思うが、今の日本国内の充電インフラでは厳しいです。
電費計測を行うことをすっかり失念していたため、正確な数字は不明だが、試乗前6.0km/kWh→6.3km/kWhへ増加。
今の日本の充電インフラでは、例えバッテリー容量を増加した車両を保有したとしても、旅先での充電でその容量を充分に満たすことが出来ません。
MX-30の容量ですら充分に満たせないとなると、かなり深刻な問題だと感じました。
長距離走行を行う方にとっては、結局継ぎ足し走行を余儀なくされ、スペックを充分に活かせないことは残念なことだと思います。
MX-30自体の走りはとても良く、電気自動車でも運転を愉しめることがわかったことは良かったです。
あとは充電設備の大幅なアップデートを政策的に行い、1回の急速充電で充分なバッテリー容量(80%以上くらい)の回復を可能とするインフラ体制の構築が望まれます。
そういったインフラが整ったら、電気自動車の購入はオススメできるのではないでしょうか?
とはいえ、電気自動車の試乗だけなら気軽に行うことができます。
これからの新たなパワートレインを感じるドライブを楽しんでみてはいかがでしょうか?