アテンザ

 

すすきとひよこ

今回は、マツダのクリーンディーゼルエンジンにおける不具合報告や悪評について、GJ初期型アテンザ(XD-Lpackage 6AT)を9年18万km乗っている私の見解をお伝えします。

マツダのクリーンディーゼルエンジン「SKYACTIVE-D(スカイアクティブD)」は何が凄いの?

そもそもマツダが開発したクリーンディーゼルエンジン「SKYACTIVE-D」の特長とはどのようなものでしょうか。

最大の特長:・低圧縮比(14.0)による燃焼改善

圧縮比とは?

ピストンはエンジンシリンダー内を上下に動いていますが、往復する間の容積が排気量となり、ピストンの上限時点でのシリンダーヘッドとの隙間が燃焼室となります。圧縮比は、燃焼室容積÷(燃焼室容積+排気量)で表され、一般的には圧縮比が高いほど熱効率も高まり出力も向上する。

ガソリンエンジンとディーゼルエンジンでは、燃焼方法の違いから圧縮比には差があり、
ガソリン(火花着火):10~13程度
ディーゼル(自己着火):18~20程度
が一般的な圧縮比となっています。

高圧縮比のほうが熱効率が高いなら、わざわざ低圧縮比にする必要なんてあるの?と思いますが、圧縮比を高めたディーゼルエンジンには以下のようなデメリットがありました。

一般的な高圧縮ディーゼルエンジンのデメリット:エンジン構造部品の強靭化(肉厚化等)による重量増

高圧縮比=熱効率向上=燃焼時のエネルギー増大となり、そのエネルギーに耐えられるだけの構造にする必要があることから、頑丈にする分重量も重くなりがちです。
重い部品で組み立てられたエンジンは、回転数も上がらずレッドゾーンは低くなります。

一般的な高圧縮ディーゼルエンジンのデメリット2:燃焼エネルギーの高さによる騒音、振動

シリンダー内での高い燃焼エネルギーは、エンジン本体の振動や騒音問題にも繋がる要因となります。

一般的な高圧縮ディーゼルエンジンのデメリット3:窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)の発生&後処理装置の追加によるコスト高

圧縮比が高いということは、燃焼室内の温度も高くなり、燃料である軽油の自己着火は容易になりますが、適切な空気との混合比が出来上がる前に、
局所的に不均一な燃焼を起こしやすく、それに伴うNOxの生成や、酸素不足部分ではPMの発生を招いてしまいます。
またこれらの対策として、高価な後処理装置を備え付ける必要もあり、購入時及びメンテナンスを含めて維持費もコスト高になります。

一般的な高圧縮ディーゼルエンジンのデメリット4:排ガス規制による膨張比の減少

世界的に厳しくなっていく排ガス規制に対し、高圧縮比のディーゼルエンジンは、NOxやPM対策として、理想的な燃料開始地点を修正せざるを得ず、高圧縮のメリットを殺す羽目になってしまいました。
ディーゼルエンジン圧縮比比較
(出典:https://www.mazda.com/ja/innovation/technology/skyactiv/skyactiv-d/)

上記の画像でいうところの従来図式の構図となりますが、ピストンの下降に伴う温度低下を待って燃料噴射を行うことで、NOxや煤の生成を抑える対応策を行う形となります。
ピストンが下がってから燃焼を開始することで、そこから得られる仕事量(膨張比)も当然下がることになり、出力や燃費の悪化を招きます。

高圧縮のデメリットが顕在化しているなか、それでもディーゼルエンジンは圧縮比が高い傾向は続きました。
何より、圧縮比をあげないと低温時等における軽油の自己着火が安定しないと考えられたためです。
そもそもの燃焼の安定性を確保できなくては、エンジンとしてスタート地点にも立てません。

そのようななか、2012年からマツダは世界初となる圧縮比14.0という低圧縮比クリーンディーゼルエンジン、通称「SKYACTIVE-D」搭載車両を販売しました。

良いこと尽くめ!? マツダSKYACTIVE-D(スカイアクティブD)に問題点はあるのか?

さて、SKYACTIVE-Dの圧縮比14.0というのは、世界でも類を見ない低圧縮比ディーゼルエンジンです。

スカイアクティブD写真
(出典:https://www.osaka-mazda.co.jp/skyactiv/skyactiv-d)

低圧縮比にした際の問題点である軽油の自己着火の安定性について、混合気濃度の生成技術や燃料噴射技術の向上、また排ガスの循環による燃焼室内の温度上昇等、複数の要因を組み合わせることでブレークスルーしました。
これにより、以下のメリットが生まれます。

SKYACTIVE-Dのメリット:NOx低減による後処理装置不要化

圧縮比が低いということは、シリンダー内の温度も高くありません。そのためピストンは最上部近くに到達するまで燃料の自己着火を遅らせることができ、
その間に適切な混合気を生成する猶予が生まれます。
適切な混合気による適切な燃焼により、NOxの生成を抑えることが可能となり、後処理装置なしで多くの地域の排ガス規制に対応できるエンジンとなりました。
これにより、他のディーゼルエンジン搭載車よりもコスト面で優位に立ちます。

メリット2:膨張比の確保が可能

この図を再掲

ディーゼルエンジン圧縮比比較

(出典:https://www.mazda.com/ja/innovation/technology/skyactiv/skyactiv-d/)

下段の図式になりますが、ピストンが最上部に近い位置で燃料着火を可能としますので、結果として排ガス規制による着火位置調整が必要な高圧縮のディーゼルエンジンよりも、ピストンの仕事量を増やすことが可能となりました。これにより低圧縮比ながらも出力・トルクとも見劣りしないエンジンとなりました。

メリット3:エンジンの軽量化に成功

低圧縮による燃焼エネルギーの低下は、それまでディーゼルエンジンに必要だった頑丈さを軽減することが可能となり、機械抵抗の低減化やエンジン自体の軽量化、それに伴うコスト低下を達成し、軽量化によって従来のディーゼルエンジンでは考えられないほどの吹け上がりの良さを獲得し、走って気持ちの良いエンジンとなりました。

と、低圧縮化により良いこと尽くめの「SKYACTIVE-D」ですが、近年その問題点も明らかになってきました。

SKYACTIVE-D(スカイアクティブD)の問題点:大量の粒子状物質(PM)が蓄積される

ディーゼルエンジンは、CO2の排出はガソリンエンジンに比べて少ないかわりに、NOxや粒子状物質(PM)が多く排出されるエンジンです。
燃焼温度が高いと、NOxは増えPMは減る。
燃焼温度が低いと、NOxは減ってPMは増えるという感じです。

低圧縮ディーゼルエンジンであるSKYACTIVE-Dは、NOxは少ないもののPM自体の生成量は多めになりやすいエンジンということになります。
そしてPMの発生に対しては、マフラー内に装着したフィルター(DPF)で吸着し、外部への排出時は規制値以下になるという寸法です。

DPFの吸着量が多くなると、燃料を多めに吹くことで排気温度を上げ、吸着したPMを強制燃焼させることでDPFを再生します。

世間で生じた問題:DPFの目詰まり

DPF再生のためには排気温度の上昇が必要であり、エンジンも完全暖機状態である必要があります。
つまり、暖機が終わらないうちの走行を繰り返していると、DPF再生が追い付かず目詰まりを起こしやすくなります。

世間で生じた問題2:EGR(排ガス循環)時の経路内PM堆積

SKYACTIVE-Dは、低圧縮による燃料自己着火の安定性確保のため、排ガスを燃料室に循環させることで対応していると記載しました。
当然この排ガスにもPMは含まれています。
燃焼室に入ったPMは、軽油の着火に合わせて完全燃焼してくれるでしょうが、燃焼室に入る前までの経路でPMが堆積し詰まるような症状も発生しているようです。

これら問題は、いずれも短距離及び低負荷での走行メインの車両に発生しやすいものかと思います。
エンジン構造の強度を下げた分、高負荷時のテストはかなり煮詰められたと思いますが、チョイ乗りや低負荷メインでの使用ユーザーの購入までは
想定していなかったということでしょうか。
(それは企業として甘いと言わざるを得ないですが・・・)

SKYACTIVE-D(スカイアクティブD)搭載車に長年乗って実感したこと

私のアテンザに関しては、それまで休日の長距離ドライブ使用がメインでしたが、ガレージハウス建築後は、
毎日の通勤(片道約20km、一部渋滞路あり)での使用をメインとしており、半年ごとディーラーで点検実施しています。

現状、エンジン関係でのトラブルは一切なく、想定内の使用環境であれば、SKYACTIVE-Dは長年問題なく性能を発揮できるということです。

※アテンザのブログ作成時点での現況
平均燃費は前回給油時から656km走行時点でのもの。またDPF再生直後のため、メーター上はまだ伸ばせるかと思います。

アテンザ現況

18万km超えのSKYACTIVE-D(スカイアクティブD)の耐久性や問題点は?

私のアテンザは、PMに関する諸問題は顕在化していませんが、それ以外の部分で明らかに劣化してきたと感じる部分は当然あります。

劣化ポイント1:燃費ダウン

通勤で使用するようになったのもあるかもしれませんが、以前は19~20km台のメーター表示が可能でしたので、その頃から比べると下がってきたと思います。
特に夏場のエアコン使用時は明らかに燃費が悪くなりました

劣化ポイント2:DPF再生頻度の増加

当初は少なくとも300km以上走行してから再生していましたが、現在は200~250km程度で再生が入ります。
それに伴う燃費ダウンもあるかと思いますが、マツダのSKYACTIVE-Dは、PM発生が多い傾向のため、どうしてもDPF再生の頻度は多くなりがちです。
DPF自体を交換するまではいきませんが、これがまだ走行距離がそれほどでもない時点で発生したとしたらガックリきちゃいますよね。

そのほか、やや音がうるさくなったなと思うくらいで、動力性能には何の不満もなく、18万kmを超えてもまだ快適なドライブシーンを提供してくれています。
そのため、現時点でのエンジン本体に関する耐久性は全く問題ないという判断です。

SKYACTIVE-D(スカイアクティブD)搭載車の中古購入をする際のポイント

もし、マツダのSKYACTIVE-D搭載車を中古車として購入する場合、上記の諸問題に遭遇したくはないですよね。
ポイントとして、SKYACTIVE-D諸問題の原因は、何よりユーザーの使用環境に起因するものであることです。
そして、私が実感した限り、過走行気味であってもエンジン本体の調子は好調をキープでき、耐久性も問題ないということです。

以上から、SKYACTIVE-D搭載車を中古で狙うなら、低走行車を意識するのではなく、逆に過走行気味の車両を選ぶのが手ではないでしょうか?
おそらく、距離を乗っているエンジンでは、私が劣化ポイントとして感じている部分(燃費、DPF再生頻度、音)は気になるかもしれませんが、もともと高燃費なエンジンですし、大したウィークポイントにはなり得ないとも言えます。
過走行で車体価格が安いのはかえって好都合かと思いますので、私だったら狙ってみたいですね。

とはいえ、マツダのスカイアクティブテクノロジーは、ディーゼルエンジンだけでなく、
車両の製造技術(ボディ、トランスミッション、シャシー、エンジン)を全て一から見直し構築した技術です。
当然ガソリンエンジンも例にもれず(こちらは高圧縮比のガソリンエンジンとなりました)、走行性能は高いものを持っています。
どうしてもディーゼルエンジンじゃなきゃだめ!という方でなければ、ガソリンエンジン搭載車でも充分楽しめると思いますので、自身の使用環境を鑑みて決めて頂ければと思います。

スカイアクティブテクノロジー
そういう意味でも、このエンブレムが最もスカイアクティブテクノロジーの意味合いを表現している感じがして好きです。
(現マツダ車の採用しているエンブレムは、エンジン名が表記されていて、エンジンだけじゃないだろ!と思わずにはいられないのです)。

内燃機関は消滅するのか?パワートレインと環境問題

やや話題が脱線しますが、世界的にもカーボンニュートラルにおける政策が目玉となり、欧州を始め自動車の電動化が急ピッチで進行しています。
日本メーカーの持つ内燃機関の優秀さや、日本国内の発電構成の問題、海外(特に欧州勢)の思惑もありそうで、EV化を1丁目1番に動いていいのか疑問を感じずにはいられません。

この話題に関しては、個人的に興味がある分野であり、また別記事で紹介できればと思います。
風車とアテンザ
クリーンエネルギーの象徴となる風車群と撮影(宗谷丘陵にて)

まとめ

SKYACTIVE-Dの特徴

・低圧縮比による製造コスト低減(後処理装置不要、エンジン軽量化)
・低圧縮比ながら、高圧縮ディーゼルエンジンに劣らない性能(出力、トルク)
・使用環境によるPM問題の内在(充分な暖機がとれない状況下の運転メインだとリスク大)

中古車での購入を検討するなら

・SKYACTIVE-D(スカイアクティブD)であれば、あえて過走行車両を狙うのもあり
・点検記録のある車両(オイル、オイルフィルター交換履歴)も優先
・SKYACTIVE-Dだけがマツダ車じゃない!使用環境を鑑みて、絶対ディーゼルエンジン!というわけでなければガソリン車も検討して